外来でよく相談される「風邪をひきやすい」という悩み
外来をしていると、喘息のある患者さんから
「年に何回も風邪をひいて、そのたびに咳が長引きます」
「自分は風邪をひきやすい体質なのでしょうか」
と相談されることがあります。日暮里・荒川区周辺でも、季節の変わり目や感染症が流行する時期には、このような相談が増える印象があります。
風邪をきっかけに咳や息苦しさが続くと、「喘息が悪くなっているのでは?」、「免疫が弱いのでは?」と不安になるのは自然なことです。では、喘息があると本当に風邪をひきやすくなるのでしょうか。
よくある質問・不安
「喘息があると、風邪をひきやすいのですか?」
海外の研究では、喘息がある人では上気道感染や下気道感染が増える可能性が報告されています。たとえばフィンランドのEspoo Cohort Study(1)では、喘息のある人は上気道感染、下気道感染のいずれも多い方向であることが示されました。
また、妊婦さんを対象にした研究(2)でも、喘息のある妊婦さんは喘息のない妊婦さんより風邪が多かったと報告されています。
このため、「喘息があると風邪をひきやすい」と感じることには、一定の医学的な裏付けがあると考えられます。
「免疫が弱いということですか?」
ここは誤解されやすい点です。喘息があるからといって、単純に「全身の免疫が弱い」という意味ではありません。
喘息は、気道に慢性的な炎症がある病気です。気道とは、鼻・のどから気管支に続く空気の通り道です。この気道が敏感な状態になっていると、風邪のウイルスに反応して、咳、痰、ゼーゼー、息苦しさなどが出やすくなります。
原因の説明:感染しやすい場合と、症状が出やすい場合がある
ウイルス感染後に症状が強く出やすい
重要なのは、「感染そのものが増える」のか、「感染後に症状が強く出る」のかを分けて考えることです。
ライノウイルスを調べた有名な研究(3)では、喘息のある人でライノウイルス感染そのものが明らかに多いとは言えない一方で、感染後の下気道症状はより頻回で、重く、長引きやすいことが示されました。
つまり、同じように風邪のウイルスに感染しても、喘息がある方では「ただの鼻風邪」で終わらず、咳や胸の症状として表に出やすいことがあります。そのため、患者さん自身には「風邪をひきやすい」「風邪が治りにくい」と感じられることがあります。
気道上皮の抗ウイルス応答が関係する可能性
喘息では、気道上皮、つまり気道の表面を覆う細胞の働きが変化している可能性があります。基礎研究では、喘息患者さんの気道上皮でウイルスに対する反応が十分でない場合があることが示されています。
ただし、この分野は研究によって結果に差があります。喘息の重症度、吸入薬の使用状況、アレルギー体質、気道炎症のタイプなどによって異なる可能性があり、「喘息の人は全員ウイルスに弱い」と断定するものではありません。
喘息治療で風邪は防げるのか
吸入ステロイドで風邪そのものを完全に防ぐわけではない
喘息の治療を吸入ステロイドなどでしっかり行うと、風邪を完全に防げるのでしょうか?
結論としては、風邪そのものを完全に予防する治療ではありません。
一方で、喘息の気道炎症を日頃から整えておくことで、風邪をきっかけに咳が長引いたり、喘息発作に進んだりするリスクを下げられる可能性があります。
実際に、ブデソニド/ホルモテロールを用いた治療で、風邪に関連した重い喘息増悪が減ったという報告があります(4)。なお、この研究では風邪の発生頻度そのものは治療群間で大きく変わらず、主に「風邪をきっかけにした喘息悪化」を減らした点が重要です。
大切なのは「風邪をひいた時に悪化させない」こと
喘息の方にとって大切なのは、風邪を一度もひかないことを目標にするよりも、風邪をひいた時に喘息として悪化させないことです。
そのためには、症状が落ち着いている時期も、医師から指示された吸入薬を自己判断で中断しないことが大切です。特に、風邪のたびに咳が2〜3週間以上続く、夜間や明け方に咳で起きる、ゼーゼーする、息苦しい、発作止めの吸入薬が増える場合は注意が必要です。
風邪を予防するためにできること
一般的な風邪予防としては、手洗い、十分な睡眠、無理のない運動習慣が基本です。水うがいについては日本から上気道炎を減らしたという報告もありますが、効果を過度に期待できるものではありません。
ビタミンC、ビタミンD、亜鉛、プロバイオティクスなどは研究がありますが、「飲めば確実に風邪を予防できる」とまでは言えません。栄養不足を避け、睡眠を確保し、流行期には混雑した場所での感染対策を意識する、という現実的な対策が中心になります。
外来で実際によくある補足
「風邪が治らない」と思っていたら、喘息の咳だった
診療現場で多いのは、「風邪をひいてから咳だけが残っている」と受診され、検査や経過から咳喘息や喘息の悪化が疑われるケースです。
熱やのどの痛みは数日でよくなったのに、咳だけが長引く。夜や明け方に咳が出る。冷たい空気、会話、運動、タバコの煙で咳が出る。このような場合は、単なる風邪の長引きではなく、気道の過敏性が関係していることがあります。
日暮里・荒川区周辺でも、通勤や通学、季節の変化、花粉、黄砂、感染症流行などが重なり、咳が長引いて相談される方は少なくありません。
まとめ:風邪をひきやすいと感じる時は、一人で悩まず相談を
喘息がある方では、風邪などの上気道炎にかかりやすい可能性を示す研究があります。また、感染の回数そのものが同じでも、ウイルス感染をきっかけに咳や喘鳴、息苦しさが出やすく、長引きやすいことがあります。
大切なのは、「喘息だから免疫が弱い」と不安になりすぎることではなく、気道の炎症を日頃から整え、風邪をひいた時に悪化させないことです。
風邪のたびに咳が長引く、喘息症状が悪化する、吸入薬をどう使えばよいか迷う場合は、一人で悩まず呼吸器内科で相談してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療を行うものではありません。
本文監修:ぜんそくと肺のクリニック 院長 井上 英樹 (日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医)
参考文献
(1) Belachew AB, et al. Am J Epidemiol. 2023.
(2) Murphy VE, et al. Chest. 2013.
(3) Corne JM, et al. Lancet. 2002.
(4) Reddel HK, et al. Eur Respir J. 2011.








