外来でよくあるご相談
最近、外来で「喘息がありますが、肺炎球菌ワクチンは打った方がよいですか?」、「プレベナー20という新しいワクチンは自分にも関係ありますか?」と相談されることが増えています。
喘息の患者さんは、咳や息苦しさが悪化した経験があると、「肺炎になったら大丈夫だろうか」、「ワクチンで喘息も良くなるのだろうか」と不安に感じることがあると思います。
今回は、65歳以上の方で使われるようになった肺炎球菌ワクチン「プレベナー20(PCV20)」について、喘息との関係を整理します。
よくある質問・不安
1. PCV20の日本での位置づけ
日本では、2026年度から高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種として、20価肺炎球菌結合型ワクチンであるプレベナー20(PCV20)が使われるようになりました。
対象は主に65歳の方です。また、60〜64歳でも、心臓や腎臓の病気、喘息やCOPDなど呼吸器などに一定の障害がある方は対象になる場合があります。肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌による肺炎、菌血症、髄膜炎などの重い感染症を防ぐことを目的としたワクチンです。
日暮里・荒川区周辺でも、「区から予診票が届いたけれど、喘息があるので打ってよいか不安」というご相談は少なくありません。
2. 喘息患者では肺炎球菌感染症リスクが高い
喘息は、気道に慢性的な炎症がある病気です。普段は吸入薬などで落ち着いていても、風邪やインフルエンザ、肺炎などの感染をきっかけに咳・痰・息苦しさが悪化することがあります。
海外の研究では、喘息のある方は、喘息のない方と比べて侵襲性肺炎球菌感染症のリスクが高いことが報告されています。侵襲性肺炎球菌感染症とは、肺炎球菌が血液や髄液など本来菌がいない場所に入り、重症化する感染症です。
そのため、喘息のある高齢者では、肺炎球菌による重い感染を防ぐことが、呼吸器の健康を守るうえで大切になります。
3. PCV20そのものの喘息患者データ
ここは正確にお伝えする必要があります。
現時点では、「喘息患者だけを対象にして、PCV20が肺炎球菌性肺炎をどのくらい減らしたか」を直接示した大規模な臨床研究は十分ではありません。
PCV20の成人データは、主に安全性や免疫反応を調べた研究です。成人や、肺炎球菌感染症のリスクが高い基礎疾患を持つ方でも、PCV20によりワクチンに含まれる血清型への免疫応答が確認されています。ただし、喘息患者だけに絞って「肺炎が何%減った」と断定できるデータではありません。
つまり、PCV20は有望なワクチンですが、喘息患者さんへの説明では「喘息患者専用の効果が直接証明された」というより、「喘息は肺炎球菌感染症リスクが高く、そして、PCV20は肺炎球菌感染症予防のために使われるワクチン」と分けて理解するのがよいでしょう。
4. 喘息増悪や喘息コントロールへの効果
肺炎球菌ワクチンを打つと、「喘息が良くなる」、「吸入薬が不要になる」と考える方もいるかもしれませんが、これは正しくありません。
PCV20は、喘息そのものの気道炎症を治す薬ではありません。喘息コントロールを維持するには、吸入ステロイド薬を中心とした治療、症状や呼気NO・呼吸機能に応じた調整、アレルギーや副鼻腔炎など合併症の管理が重要です。
ただし、肺炎をきっかけに喘息が悪化することはあります。その意味で、ワクチン接種を利用して肺炎球菌感染症を防ぐことは、喘息管理の「土台を守る」ことにつながる可能性は十分あります。
5. 喘息増悪予防という視点で大切なワクチン
喘息発作は感染をきっかけに起こることが多いため、ワクチンは喘息管理の補助として重要です。
特に根拠が比較的はっきりしているのは、毎年のインフルエンザワクチンです。
| ワクチン | 喘息患者さんでの位置づけ |
|---|---|
| インフルエンザワクチン | 感染をきっかけとした喘息増悪、救急受診、入院を減らす可能性があり、毎年の接種がすすめられます。 |
| COVID-19ワクチン | COVID-19の重症化や感染関連の喘息悪化を防ぐ目的で重要です。 |
| 肺炎球菌ワクチン(PCV20) | 肺炎球菌性肺炎や重症感染症を防ぐ目的。喘息そのものを改善するワクチンではありません。 |
| RSVワクチン | 高齢者や慢性肺疾患のある方で、重症RSV感染を防ぐ目的。比較的新しいワクチンであり、喘息増悪予防効果は今後の検討課題です。 |
まとめ:高齢の喘息患者さんでは前向きに検討を
喘息があるからといって、肺炎球菌ワクチンで喘息そのものが良くなるわけではありません。吸入薬など、喘息の基本治療を続けることが最も大切です。
一方で、喘息のある方は肺炎球菌感染症のリスクが高い可能性があり、特に65歳以上では肺炎をきっかけに体調を大きく崩すことがあります。高齢の喘息患者さんでは、肺炎球菌ワクチン、特に定期接種の対象となるPCV20は、前向きに検討してよいワクチンです。
ワクチンを打つタイミング、過去の肺炎球菌ワクチン接種歴、現在の喘息の状態によって判断が変わることもあります。日暮里・荒川区周辺で喘息や長引く咳、息切れがあり、ワクチンについて迷っている方は、一人で悩まず、呼吸器内科で相談してください。
参考文献
(1) 厚生労働省. 高齢者の肺炎球菌ワクチン.
(2) 日本呼吸器学会・日本感染症学会・日本ワクチン学会合同委員会. 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方 第8版. 2026.
(3) Talbot TR, et al. Asthma as a risk factor for invasive pneumococcal disease. N Engl J Med. 2005;352(20):2082-2090.
(4) Juhn YJ, et al. Increased risk of serious pneumococcal disease in patients with asthma. J Allergy Clin Immunol. 2008;122(4):719-723.
(5) Essink B, et al. Pivotal Phase 3 randomized clinical trial of the safety, tolerability, and immunogenicity of 20-valent pneumococcal conjugate vaccine in adults 18 years and older. Clin Infect Dis. 2022;75(3):390-398.
(6) Sabharwal C, et al. Immunogenicity of a 20-valent pneumococcal conjugate vaccine in adults 18 to 64 years old with medical conditions and other factors that increase risk of pneumococcal disease. Hum Vaccin Immunother. 2022;18(6):2126253.
(7) Vasileiou E, et al. Effectiveness of influenza vaccines in asthma: a systematic review and meta-analysis. Clin Infect Dis. 2017;65(8):1388-1395.
※本記事は、2026年6月時点での状況を基に執筆しています。また、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療を行うものではありません。
※本文監修:ぜんそくと肺のクリニック 院長 井上 英樹 (日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医)








