外来でよくあるご相談です
外来では、「台風が近づくと咳が増える気がする」「天気が崩れる前に胸が苦しくなる」といったご相談を受けることがあります。実際、日暮里や荒川区のように日々の生活の中で天気の変化を体感しやすい地域でも、気圧や湿度の変化と体調の関係を気にされる方は少なくありません。
「気のせいなのでは?」と思ってしまう方もいますが、こうした感覚には科学的な根拠も示されつつあります。日本の研究でも、台風の接近や気象の変化と喘息発作の関連を示した報告があります(1)。もちろん、すべての方に同じように起こるわけではありませんが、少なくとも“まったく根拠のない話”ではないと考えられています。
よくある質問・不安
「台風そのもの」が原因なのでしょうか?
患者さんがよく抱く疑問は、「台風が来ると喘息が悪くなるのは、単に気圧が下がるからですか?」というものです。
たしかに気圧の変化は関係している可能性があります。ただ、現在の医学では、台風のときの喘息悪化を気圧だけで説明するのは難しいと考えられています。気温、湿度、風、空気中の細かな粒子、花粉や真菌、体調そのものなど、いくつもの要素が重なって症状が出やすくなるとみるほうが自然です。
原因の説明
気道には「刺激を感じ取るしくみ」があります
少し専門的になりますが、気道や肺には、伸び縮みや刺激を感じ取る機械受容性の迷走神経求心路というしくみがあります。これは、空気の流れや肺のふくらみ方、気道への刺激を脳へ伝える“センサー”のような役割を持っています。
この感覚の通り道が敏感になっていると、少しの刺激でも咳が出たり、胸苦しさを感じたりしやすくなります。喘息の方ではもともと気道が過敏なため、天候の変化に伴うさまざまな刺激に反応しやすいのではないか、と考えられています。現時点で「気圧だけを感じる特別な受容体が気管支にある」とまでは言えませんが、気道の機械刺激を感じる神経の関与は十分考えられます(2)。
すぐ受診したほうがよい場合
台風の前後に症状が出ても、軽い咳だけで自然に落ち着くことはあります。調子の悪さを感じたら、仕事で無理をしたりせず、自宅でゆっくり休むことも重要です。ただし、会話で息が続かない、夜間に何度も目が覚める、吸入しても苦しさが改善しない、ゼーゼーが強いといった場合は注意が必要です。こうしたときは、無理に様子を見すぎず、早めの受診をおすすめします。
外来で実際によくある補足
「台風が来た日」より「近づいてくる時」に悪くなることがあります
診療していると、「上陸した当日」よりも、南の海上から台風が北上してくる段階で症状が出やすい方がいます。これは珍しいことではありません。
台風が接近する過程では、気圧がゆっくり下がるだけでなく、暖かく湿った空気が流れ込み、風向きも変わります。人によっては、こうした変化が重なった時点で気道が刺激されやすくなる可能性があります。「台風が来たから一律に悪化する」というより、「接近の過程で体が反応しやすい人がいる」と考えるとわかりやすいと思います。
まとめ
接近期に悪化しやすい理由
まとめると、台風が近づくと喘息が悪化しやすい背景には、気圧の変化に加えて、湿った空気の流入、風向きの変化、空気中の細かな刺激物の増加など、いくつもの要素が関わっている可能性があります。そして、もともと敏感になっている気道では、こうした変化を神経が受け取り、咳や息苦しさとして表れやすくなると考えられます。
「台風の前になると毎回つらい」「天気が崩れる前に咳が増える」という方は、気のせいと決めつけなくて大丈夫です。一方で、すべてを天気のせいにしてしまうと、普段のコントロール不良を見逃すこともあります。気になる症状が続くときは、一人で悩まず、いつもの治療が合っているかも含めて呼吸器内科でご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療を行うものではありません。
本文監修:ぜんそくと肺のクリニック 院長 井上 英樹 (日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医)








