長引く咳と漢方:咳の性状による使い分け ― 呼吸器内科外来でよくある相談を解説 ―

長引く咳の治療で漢方薬を検討している様子のイメージ

長引く咳の治療で漢方薬を使うことがあります

長引く咳で受診される患者さんの中には、「漢方薬で治療できますか?」というご質問をされる方が少なくありません。特に、吸入薬が十分に効かない場合や、副作用が気になる場合、あるいは妊娠中・授乳中・不妊治療中などで薬の影響を心配されている方から相談を受けることがあります。

また、声枯れや口内炎などの理由で吸入薬が使いにくい場合にも、漢方薬が治療の選択肢として検討されることがあります。漢方薬は長い歴史の中で用いられてきた治療法であり、西洋医学の薬と併用しながら症状の改善を目指すことがあります。

よくある質問

咳にはどの漢方薬を使うのでしょうか?

外来でよく聞かれる質問として、「咳にはどの漢方薬が効きますか?」というものがあります。しかし、漢方薬は特定の病名に対して一律に処方されるものではありません。

一般的な西洋薬では、例えば喘息や感染症など病気の診断に応じて薬を選ぶことが多いですが、漢方では患者さんの症状や体の状態をみて薬を選ぶという特徴があります。そのため、同じ「咳」という症状でも、咳の性質によって使われる漢方薬が異なります。

咳のタイプによる漢方薬の使い分け

呼吸器の診療では、咳の特徴を大きく分けると次の3つのタイプで考えることがあります。

  • 乾いた咳(乾性咳嗽)
  • 痰を伴う咳(湿性咳嗽)
  • 喘息に関連する咳(喘息性咳嗽)

ここでは読者の理解を優先して、代表的な漢方薬を紹介します。

乾いた咳(乾性咳嗽)

乾いた咳は、コンコンと続く咳や喉の乾燥感を伴うことが多い咳です。

麦門冬湯(ばくもんどうとう)
乾いた咳や喉の渇き、痰が切れにくい咳に用いられることが多い漢方薬です。咳の漢方薬として比較的よく知られています。

滋陰降火湯(じいんこうかとう)
喉の乾燥を伴う咳に使われることがあります。夕方から夜にかけて体が温まると咳が出るような場合に選択されることがあります。

痰を伴う咳(湿性咳嗽)

痰が絡む咳では、痰の性状によって処方が変わることがあります。

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
痰が切れにくい咳や、ぜいぜいする咳に用いられることがあります。口の渇きや発汗を伴う場合に適応となることがあります。

五虎湯(ごことう)
粘り気のある痰や黄色い痰を伴う咳、咳が強く出る場合に使われることがあります。

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
水のような鼻水やさらさらした痰を伴う咳に用いられることがあり、花粉症に伴う咳で使われることもあります。

清肺湯(せいはいとう)
黄色や緑色の痰を伴う咳に使われることがあり、感染症による咳で抗生物質と併用されることもあります。

竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)
マイコプラズマ感染や百日咳など、感染後に咳が長引く場合に用いられることがあります。微熱や不眠、不安感などを伴うケースで選択されることがあります。

喘息に関連する咳(喘息性咳嗽)

喘息に関連する咳では、気管支の状態や全身症状を考慮して漢方薬が選ばれることがあります。

神秘湯(しんぴとう)
痰の少ない咳や喘鳴(ぜいぜい)、息苦しさを伴う場合に使用されることがあります。慢性閉塞性肺疾患(COPD)で用いられることもあります。

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
喉の違和感やイガイガ感、声のかすれなどを伴う咳に用いられることがあります。

柴朴湯(さいぼくとう)
喘息に関連する咳に用いられることがあり、咽喉頭の違和感、動悸、めまい、吐き気などを伴う場合に選択されることがあります。

放置した場合の注意点

長引く咳の中には、咳喘息や喘息、感染後咳嗽など、治療が必要な病気が隠れていることがあります。漢方薬は症状の改善に役立つことがありますが、漢方薬だけで長引く咳が完全に治るケースは多くありません

咳が長く続いている場合には、原因を評価しながら治療を行うことが大切です。

受診の目安(重要)

次のような場合には医療機関への受診をおすすめします。

  • 咳が3週間以上続いている
  • 夜間や早朝に咳が悪化する
  • 息苦しさやぜいぜいする症状がある
  • 市販薬や咳止めで改善しない

一方で、風邪の回復期などで軽い咳が数日程度続く場合には、経過を見ることもあります。

日暮里・荒川区周辺でも、長引く咳の相談で受診される方は少なくありません。

検査・治療について

医療機関では、

  • 問診
  • 胸部レントゲン
  • 呼吸機能検査

などを行い、咳の原因を評価します。

治療としては、吸入薬や内服薬などの一般的な治療に加えて、症状に応じて漢方薬を併用することがあります。漢方薬は即効性のある薬ではないため、数日から数週間かけて症状の変化をみながら調整します。

外来でよくある補足

外来では「漢方薬だけで咳を治したい」という希望を持たれる方もいらっしゃいます。しかし実際には、吸入薬や内服薬と組み合わせて使うことで効果が期待できるケースが多くあります。

漢方薬は西洋医学の治療を補う形で使われることが多いという点を理解しておくことが大切です。

まとめ:漢方薬は長引く咳の治療の選択肢の一つ

長引く咳に対して、漢方薬が治療の選択肢になることがあります。ただし、漢方薬だけで治療が完結するわけではなく、原因に応じて西洋薬と併用しながら治療を行うことが一般的です。

咳が長引いている場合や治療について不安がある場合には、一人で悩まず医療機関で相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療を行うものではありません。

本文作成・監修:ぜんそくと肺のクリニック 院長 井上 英樹 (日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医)

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