夏の終わりから続く咳、風邪だと思っていませんか
「もう1ヶ月近く咳が続いているのですが、風邪でしょうか」――8月下旬頃から、こうしたご相談を外来でよくお聞きします。熱もなく、鼻水もそれほどひどくないのに、咳だけがだらだらと長引く。エアコンの効きすぎや空気の乾燥のせいだと思って様子を見ているうちに、気づけば数週間が経っていた、というお話も少なくありません。
実はこの時期、風邪以外にもうひとつ、見落とされがちな咳の原因があります。それが「ブタクサ」の花粉です。今回は、ブタクサ花粉と咳の関係について、わかっていることを整理してお伝えします。
よくある質問・不安
ブタクサ花粉症とはどんな病気ですか?
ブタクサは道端や河川敷、空き地などに生えるキク科の植物で、もともとは北米から入ってきた植物と言われています。草丈は1〜2メートルほどになり、夏の終わりから秋にかけて、目立たない小さな黄色い花をたくさん咲かせます。スギのように遠くの山から花粉が飛んでくるのではなく、生活圏のすぐそばに生えているため、散歩やジョギングのコースに知らないうちにブタクサが茂っている、ということも珍しくありません。
花粉が飛散するのは例年8月下旬から10月頃で、まさにこれから本格化する時期にあたります。症状としては、くしゃみや鼻水、目のかゆみといった典型的な花粉症症状に加えて、「咳が出やすい」という特徴があると言われています。
なぜ鼻水だけでなく咳が出るのですか?
「花粉症なのに、なぜ喉や気道の症状まで出るのか」と疑問に思われる方も多いと思います。この点については、いくつかの研究が手がかりを示しています。
ひとつは、花粉そのものではなく、花粉が壊れてできる微小な破片(サブポーレン粒子)が関係しているという考え方です。花粉の粒自体は比較的大きいため、多くは鼻の粘膜で受け止められますが、水分を含んで破裂した花粉から放出される数マイクロメートル程度の微小な破片は、鼻を通り抜けて気管支など、より奥の気道まで到達しうることが報告されています(1)(2)。この破片にはアレルギーを引き起こすたんぱく質や、気道の炎症に関わる酵素が含まれていることも確認されており、鼻炎だけでなく咳や喘鳴(ぜんそくのようなヒューヒューという音)につながる一つの説明として考えられています。
また、花粉が飛散している時期には、気道が刺激に敏感になっている状態(気道過敏性)そのものが高まることも報告されています。ブタクサの花粉症がある方を花粉の飛散シーズンの前後で比較した研究では、シーズン中に気道の過敏性が実際に高まっており、症状のある方ほどその変化が大きい傾向にあったとされています(3)。花粉を人為的に吸入していただく試験でも、ある程度の量を吸入すると咳や息苦しさが誘発されたという報告もあります(4)。花粉症の症状がはっきりしない方の中にも、検査上は気道が敏感になっている方が一定数含まれていたとする報告もあり(5)、ブタクサ花粉が気道に影響を与えうるアレルゲンの一つであることがうかがえます。
咳が長引きやすいのはどんな方ですか
すべての方が花粉によって咳が出るわけではありませんが、次のような方は、この時期の長引く咳の原因としてブタクサ花粉アレルギーも一度考えてみていただくとよいかもしれません。
- 喘息や、咳が主な症状となる喘息(咳喘息)の既往がある方
- スギ花粉症など、他の花粉にもアレルギーをお持ちの方
- アレルギー性鼻炎がある方
- もともとアレルギー体質(アトピー素因)をお持ちの方
こうした背景をお持ちの方は、もともと気道が刺激に反応しやすい状態にあるため、花粉の時期に咳という形で症状が出やすいと考えられています。「毎年この時期だけ咳が続く」という方は、単なる風邪の長引きとして片付けず、季節性のパターンとして振り返ってみていただくとよいでしょう。
日常生活でできる対策はありますか
まず取り組んでいただきたいのは、花粉との接触をできるだけ減らすことです。
- 外出時のマスク着用
- 帰宅後の手洗い・うがい・洗顔
- 洗濯物や布団の室内干し
- 空気清浄機の使用
- 帰宅時に玄関先で衣類の花粉を軽く払ってから室内に入る
- 河川敷や空き地など、ブタクサが茂っていそうな場所をできるだけ避ける
症状がつらい場合には、抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイド、点眼薬などの薬物療法も選択肢の一つとなります。咳が長く続き、喘鳴を伴うなど咳喘息が疑われる場合には、吸入ステロイド薬による治療が検討されることもあります。いずれも症状や体質に応じて内容が変わってきますので、一般的な情報として参考にしていただき、実際の治療は診察のうえで相談していただくことをお勧めします。
また、「毎年秋だけ咳が続くが、原因がはっきりしない」「花粉症なのか、何か別のアレルギーなのか自分では判断がつかない」という方には、アレルギー検査で原因を確認しておくことも一つの方法です。当院ではブタクサを含む39種類のアレルゲンを一度の採血で調べられる「View39」という検査を実施しております。ブタクサだけでなく、スギやダニ、ハウスダストなど他のアレルゲンへの感作の有無もあわせて把握できるため、季節ごとの症状のパターンを整理する手がかりになります。詳しくは当院にご相談ください。
受診の目安
咳が数日程度で、日常生活に大きな支障がなければ、まずは上記のような対策を試しながら経過をみていただいて差し支えありません。
一方で、次のような場合は、一度呼吸器内科にご相談いただくと安心です。
- 咳が2週間以上続いている
- 夜間や早朝に咳がひどくなる、あるいは咳で眠れない
- ヒューヒュー、ゼーゼーといった喘鳴を伴う
- 息苦しさを感じる場面がある
これらは咳喘息やその他の呼吸器疾患が関わっている可能性もあるため、自己判断で市販薬だけに頼らず、一度診察を受けていただくことをお勧めします。
まとめ
ブタクサは河川敷や空き地など身近な場所に生えており、8月下旬から10月にかけて花粉が飛散します。花粉が壊れてできる微小な破片が気道の奥まで届くことなどから、鼻水やくしゃみだけでなく咳という形で症状が出ることがあると考えられています。特に喘息や他の花粉症、アレルギー体質をお持ちの方は、この時期の長引く咳の原因の一つとして、ブタクサ花粉アレルギーも念頭に置いていただくとよいかもしれません。
荒川区周辺にお住まいの方からも、季節の変わり目に咳のご相談を多くいただきます。原因がはっきりしない咳が続くときは、一人で悩まず、気になる症状があれば呼吸器内科にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療を行うものではありません。
※本文監修:ぜんそくと肺のクリニック 院長 井上 英樹
(日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医)
参考文献
(1) Phelps J. Headliners: Allergies: Ragweed Subpollen Particles Reach Deep into Lungs. Environ Health Perspect. 2007;115(4):A193. PMC1852696
(2) Bacsi A, Choudhury BK, Dharajiya N, Sur S, Boldogh I. Subpollen particles: carriers of allergenic proteins and oxidases. J Allergy Clin Immunol. 2006;118(4):844-850. PubMed
(3) Boulet LP, Cartier A, Thomson NC, Roberts RS, Dolovich J, Hargreave FE. Asthma and increases in nonallergic bronchial responsiveness from seasonal pollen exposure. J Allergy Clin Immunol. 1983;71(4):399-406. PubMed
(4) Bush RK, Sanchez H, Geiser DR, Busse WW. Inhalation challenge with ragweed pollen in ragweed-sensitive asthmatics. J Allergy Clin Immunol. 1983;71(3):302-310. PubMed
(5) Lu D, Zhau P, Yu Q, et al. Airway provocation test with ragweed pollen extract in Chinese asthmatics. Asian Pac J Allergy Immunol. 1994;12(2):125-129. PubMed








