肺炎球菌による肺炎はいまだに怖い病気
肺炎球菌は細菌性肺炎の原因となる細菌の一種です。英語では、Streptococcus pneumoniaeといいます。肺炎球菌は肺炎以外にも中耳炎や髄膜炎の原因菌としても知られています。これらは主に小児期にかかる事が多く、成人で問題となるのは肺炎球菌性肺炎や敗血症です。適切な抗生物質の投与を行えば治る病気です。一方で、高齢者や免疫不全がある方の場合は重症化することもあり、その場合は、侵襲性肺炎球菌感染症と呼ばれ、命にかかわる事態になることがあります。
肺炎球菌は小児の鼻やのどの表面に存在し、くしゃみや咳で周囲に飛び散ります。通常の免疫状態であれば吸い込んだとしても感染症に至ることはありません。一方で、加齢や病気などで免疫による抵抗力が低下している方では肺炎球菌に感染して肺炎や敗血症を起こす可能性があります。
医療が進歩した現代においても、決してあなどることはできない病気です。
喘息やCOPDがあると肺炎球菌性肺炎になりやすい
海外の疫学研究によると、喘息やCOPDなどの呼吸器疾患があると肺炎球菌性肺炎になる可能性が高いことが示されています。また、重症の状態である侵襲性肺炎球菌感染症となる可能性も高いことが知られています。喘息のコントロールが悪いと気道の炎症が起こり肺炎球菌による感染症を悪化させやすいと考えられています。
Update on the Use of Pneumococcal Vaccines: Addition of Asthma as a High-Risk Condition
An Advisory Committee Statement (ACS) – National Advisory Committee on Immunization (NACI); Coverment of Canada
このことから喘息やCOPDなどの呼吸器疾患がある方は、その治療だけではなく肺炎球菌ワクチンの接種をすることで肺炎の予防を行うことも大事であることがわかると思います。
肺炎球菌ワクチンは大きく分けて2種類ある
肺炎球菌ワクチンには大きく分けて2種類あります。
- 多糖体ワクチン(PPSV23):23種類の肺炎球菌に対して免疫力を与えるワクチンで、高齢者や免疫不全患者などに推奨されています。一度の接種で長期間にわたって効果が持続することが特徴です。薬剤名は、ニューモバックスⓇとして知られています。
- 結合タンパク質ワクチン(PCV13, PCV15):13種類もしくは15種類の肺炎球菌に対して免疫力を与えるワクチンで、PCV13は幼児や免疫不全患者などに推奨されています。複数回接種が必要で、最初の接種後に一定期間が経過した後に追加接種が必要となります。PCV13はプレベナー13Ⓡとして知られています。一方のPCV15はバクニュバンスⓇとして、高齢者や免疫不全者などに対して2023年4月から新しく投与ができるようになりました。
肺炎球菌ワクチンは治療経験も長く安全性も高い
肺炎球菌ワクチンであるニューモバックスは1988年に、プレベナー13は2013年に発売されており、十分な治療経験があり安全性が高い薬剤です。予想しうる副反応としては、一般的なワクチンと同様で、頭痛や筋肉痛、関節痛、注射部位局所の疼痛・腫脹・発赤・かゆみなどがあります。
65歳以上の方は肺炎球菌ワクチンの接種をお勧めします
肺炎球菌ワクチンのニューモバックスについては、成人の任意定期接種の対象となっています。65歳以上の方は一度接種されることをお勧めします。1回目に限り公費補助で接種を受けることができる自治体が多いです。ニューモバックスは、経年的に効果が減弱することが知られています。より確実な予防効果が欲しい場合は、ニューモバックスを接種後1-2年後に、結合タンパク質ワクチンであるプレベナー13もしくは新薬であるバクニュバンスの投与をお勧めします。結合タンパク質ワクチンを接種すると細胞性免疫が誘導されてより長期のかつ広範囲の予防効果が期待できます。
新しい肺炎球菌ワクチン「バクニュバンス」が登場!
2023年4月10日から新しい肺炎球菌ワクチンである「バクニュバンス」の投与ができるようになりました。以前からあるプレベナー13は13価でしたが、バクニュバンスは15価の結合型タンパク質ワクチンです。15種類の肺炎球菌莢膜ポリサッカライドを含み、T細胞依存性の免疫応答を誘導することが特徴的です。
バクニュバンスはプレベナー13に対して非劣勢を証明:一部の血清型では優位性あり
先に発売されたプレベナー13との違いが気になるところです。オプソニン活性という免疫力の指標を用いて評価をしたところ、バクニュバンスとプレベナー13の共通の血清型についてはバクニュバンスの非劣勢が証明されました。また、バクニュバンスのみに含まれている2つの型(22F, 33F)についてはバクニュバンスの方が優れているとの結果が示されました。その他、血清型3についても、バクニュバンスの方が優位との結果が出ています。有害事象としては、注射部位の発赤・主張・疼痛などであり、重篤な有害事象はみとめられなかったとの報告がされています(Kishino H, et al. Jpn J Infect Dis. 2022;75(6):575-582.)。実際の肺炎球菌感染症への予防効果についてはこれからの評価が待たれるところですが、今後はプレベナー13に置き換わる存在になることが期待されています。
バクニュバンスは、ニューモバックス投与の1年後の接種をおすすめします
バクニュバンスはニューモバックスと併用して投与することが想定されています。日本呼吸器学会と日本感染症学会の合同委員会から発表された提言である「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第4版)」において、ニューモバックス投与後のバクニュバンスの投与は1年以上あけることが推奨されています。ニューモバックスの定期接種をまだ済ませていない方については投与時期が少し複雑となりますので、一度医師に相談されることをお勧めします。
バクニュバンスは自費での接種です
バクニュバンスについて、公費補助のある定期接種となるかどうか、気になる方もいらっしゃるかもしれません。すでにあるプレベナー13と同様に、成人については自費での接種となります。おそらく当面は定期接種となることは無いであろうと私自身は考えています。自費での接種ではありますが、将来の自分の健康への先行投資として、ご自身の健康管理をしっかりなされたい方にお薦めいたします。
ぜんそくと肺のクリニックで肺炎球菌ワクチンの予防接種を受けましょう!
ワクチン自体はどこの医療機関でも接種はできますが、実際にその疾患の治療経験のある医師がいるクリニックで接種する方がいろいろ質問ができて安心感があります。肺炎球菌ワクチンを接種して、将来の肺炎球菌感染症のリスクを減らしたいと思っている方は、ぜんそくと肺のクリニックにぜひお越しいただければと思います。当院はJR山手線日暮里駅徒歩圏内の便利な立地にあります。お気軽にご相談ください。