とある町の診療所。Aさんは1ヶ月前から息苦しさを自覚していたため家の近くの診療所を受診しました。診ていただいたお医者さんから、いくつかの問診と聴診をしてもらいました。結果、血液検査なども特にせず、「喘息」といわれました。
「今まで大きな病気もしたことがないのに、はたしてほんとうに自分は喘息なんだろうか?」
問診と聴診だけで診断できるのか、Aさんは少し疑問に思ったのでした・・・
喘息は2400年前から記録がある歴史の長い病気
近年の医学進歩はめざましく、病気の診断方法も様々です。血液検査やPCR、CT、MRI、PET-CTなどたくさんの検査が行われています。そのような中、今回のAさんのように、クリニックで行われた問診と聴診だけで「喘息」と言われた結果に疑問を持つ方もいらっしゃるかと思います。
そもそも喘息という病気は、ヒポクラテスの時代から存在していたことが知られています。それは紀元前450年のことです。喘息になる患者像として、衣服を扱う仕事に従事していたり、遺伝的要因もその時すでに指摘されていたようです。検査機器など全くない紀元前から存在している歴史のある病気なのです。昔のお医者さんは、問診や聴診(聴診器が無い時代ー聴診器が発明されたのは1816年ーは、直接耳を胸に当てて胸の音を聞いていました)だけで喘息と診断していました。
逆に言うと、現在においても問診と聴診だけで、ある程度の正確性を持って、喘息診断は可能となっています。
喘息と診断する方法:変動性のある喘鳴・呼吸困難・咳があること
喘息と診断する根拠として、病歴や症状が大切であることは、医学が発展した現代においても同じです。喘息に典型的な病歴や症状として以下のものがあります。当てはまる項目が多いほど喘息の可能性が高いと判断します。
- 夜間や明け方に喘鳴(ぜんめい)がある。喘鳴とは、息を吐くときに「ヒューヒュー」とか「ゼーゼー」という特徴的な呼吸音のこと
- 喘鳴までは出ないが、夜間や明け方に咳が多く出現する。日中は症状が全く無いときもある
- 日中の中で息苦しい時間がある
- 喘鳴や咳が季節性の変動がある。喘息が悪化しやすい時期としては、梅雨や冬の時期、花粉や黄砂が飛散している時期、台風や低気圧が近づいたときなどが代表的
- 走ったり激しい運動をしたあとに、呼吸が「ゼーゼー」したことがある
- お酒を飲んだときに息苦しさが出る
- 痛み止めを飲んだときに息苦しくなったことがある
- 線香の煙やタバコの煙、匂いの強い香水を嗅いだときに息苦しくなったことがある
- 血のつながった家族に喘息の方がいる
- 花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどのアレルギー疾患がある
これらの症状がある場合は喘息を疑って診察、検査を行います。
喘鳴のある疾患として、他には循環器疾患である心不全があります。こちらも命にかかわる重大な病気ですので、注意深く鑑別を行いながら病歴を聴取します。
喘息に特徴的な身体所見:丁寧な聴診で喘鳴を聞き逃さない
喘息に特徴的な身体所見としては、聴診で気道狭窄音が聴取されます。前から(胸部から)の聴診だけでは十分ではありません。必ず、後ろから(背中から)の聴診も丁寧に行う必要があります。
また、通常の呼吸音を効くだけでは不十分です。必ず、患者さんに強制呼出(勢いよく息を吐き出してもらう)をしてもらい喘鳴の有無を聴取する必要があります。なぜなら、勢いよく息を吐いときに初めて気管支が収縮する喘息の方もいらっしゃるからです。
喘息の診断に長けている医師であれば、以上の問診や診察のみで喘息と診断することは可能です。
喘息と診断するための検査:呼吸機能検査は必須
これまで述べてきた問診や診察のみでもある程度喘息の診断は可能です。しかしながら、喘息にはさまざまなタイプ(フェノタイプといいます)があり、重症度も人それぞれです。その喘息の状態を詳しく評価するために以下の検査を行います。
- 呼吸機能検査
- フローボリュームカーブ
- 呼気一酸化窒素(NO)測定
- 呼吸抵抗測定
- 気道可逆性試験
- 気道過敏性試験
- 血液検査
- 末梢血好酸球数
- 血清総IgE値
- アレルゲン特異的IgE値(RAST)
上記の検査を行った上で、喘息のタイプを分類し、それぞれの患者さんにあった治療法を選択していきます。必ずしもすべての検査を行うわけではなく、必要に応じて検査を選びます。逆に、検査を行っただけで喘息の診断はできません。検査はあくまで診断の補助として用います。検査が発展した現代においても、喘息診断の基本は、丁寧な病歴聴取と身体所見です。
一人一人の患者さんの状況を詳しくお聞きして、診察をして、診断する。喘息に限らず、他の疾患においても当てはまる、医学の基本です。
喘息の診断は問診と診察で可能:治療の選択には呼吸機能検査や血液検査が必要
以上から、喘息の診断自体は、検査を行わなくても、問診と診察だけでも経験のある医師であれば可能であることをお伝えしました。すべてのクリニックで喘息の診断・治療に必要な呼吸機能検査ができるわけではなく、問診と診察のみで喘息治療を開始することも日常的に行われています。
しかしながら、診断的治療として処方が行われても、残念ながら症状が改善しないケースもあります。その場合は、一度呼吸機能検査などの精密検査を行ったほうがよいでしょう。喘息診療を得意とする呼吸器内科専門のクリニックを受診することをおすすめいたします。
当院【ぜんそくと肺のクリニック】では山手線日暮里駅から徒歩圏内の便利な立地にあります。JR線山手線・京浜東北線、京成線、日暮里舎人ライナーなど各路線からのアクセスも良好です。おかげさまで遠方からもご受診頂いております。
ポストコロナ時代となりマスクなしの生活も近く、その前に咳を治したいと思う方もいらっしゃるでしょう。長引く咳や呼吸困難でお困りの方がいらっしゃいましたら是非お気軽にご受診いただければと思います。