喘息の治療としては吸入薬が主に用いられています。それでも症状が治まらない重症喘息に対して、新しい治療選択肢が登場しました。生物学的製剤(バイオ製剤)と呼ばれる注射薬で、近年複数の種類が使われるようになり、今後の発展が著しい分野となっています。
バイオ製剤とは?
バイオ製剤とは、抗体を投与し喘息の主病態である気道炎症を引き起こす過剰な免疫反応を抑えることで効果を発揮する注射剤です。従来の治療薬である吸入薬は、吸入ステロイドや気管支拡張薬であり、あくまで喘息の症状を抑える対症療法的な位置づけでした。一方、バイオ製剤は過剰なアレルギー免疫反応を抑えるという点で喘息の根本により近い部分を治療する薬剤となっています。
バイオ製剤は喘息による気道炎症を抑え、喘息のコントロールを改善します
喘息は空気の通り道である気管支に炎症が起こる疾患です。炎症を起こす原因としては多くの免疫細胞が関与していますが、好酸球は大きな原因の1つです。また、マスト細胞と呼ばれる細胞もIgEという免疫グロブリンを介してアレルギー性の気道炎症に関係することが知られています。
バイオ製剤は、好酸球の活性を抑えたり、過剰なIgE産生による喘息増悪を抑えることで、喘息増悪の回数を減らしたり、全身性ステロイドの投与量を減らす効果などが期待できます。
バイオ製剤の投与は、従来の治療でも改善しない重症喘息に限られています
現在のところ、喘息患者さんのすべてにバイオ製剤を投与できるわけではなく、吸入ステロイドによる治療をしっかりと受けているにも関わらず喘息の状態が悪い喘息患者さんのみが対象となります。いわゆる重症喘息をお持ちの方のみが投与を受けることができます。抗体製剤という新しい薬ですのでその薬価も高額となっています。その適応は慎重に判断する必要があります。
高額な薬剤ではありますが適応をしっかりと見極めた上で投与すれば、従来の治療では得られなかった効果が期待できます。
喘息バイオ製剤の種類
重症喘息に対して、2023年1月現在、以下の5種類のバイオ製剤が承認されています。いずれも皮下注射で投与します。
- オマリズマブ(ゾレア®):抗IgE抗体
- メポリズマブ(ヌーカラ®):抗IL-5抗体
- ベンラリズマブ(ファセンラ®):抗IL-5受容体α抗体
- デュピルマブ(デュピクセント®):抗IL-4/13受容体α抗体
- テゼペルマブ(テゼスパイア®):抗TSLP抗体
喘息バイオ製剤の特徴
各バイオ製剤の特徴を以下にまとめました。
- オマリズマブ(ゾレア®):
血液検査(RAST検査)でいずれかのアレルギーが陽性に出た方で、総IgE値が30~1500IU/mLの値の方が投与対象となります。マスト細胞などから出るIgEを介した喘息増悪がある方に効果が期待できます。重度のアレルギー性鼻炎を合併している場合、鼻炎症状の改善も期待できます。体重と総IgE値で投与量が決まり、2週間毎か4週間毎の投与となります。 - メポリズマブ(ヌーカラ®)
サイトカインであるIL-5を阻害することで好酸球が関係した喘息増悪がある方に効果が期待できます。血液中の好酸球数が5%以上(絶対値で300個/μL)だとより効果が期待できます(値が低くても効く場合もあります)。4週間毎の投与となります。6歳以上の小児喘息にも適応があります。 - ベンラリズマブ(ファセンラ®)
好酸球の活性化に関与するサイトカインであるIL-5の受容体であるIL-5受容体α抗体をブロックすることで好酸球が関係している喘息患者さんに有効性が期待できます。上記のメポリズマブよりもより強く好酸球を減少させる効果があります。初めの3回は4週間毎の投与で、4回目以降は8週ごとの投与スケジュールとなっています。 - デュピルマブ(デュピクセント®)
好酸球の活性化に関与するサイトカインであるIL-4やIL-13の受容体である抗IL-4/13受容体をブロックすることで好酸球が悪影響を及ぼしている喘息患者さんに有効性が期待できます。気道上皮細胞に作用するサイトカインであるIL-13をブロックする効果もありますので、気道上皮細胞も含めたより広い範囲での効果が予想されます。呼気一酸化窒素(NO)が高い方(目安として25ppb以上)に有効性があると考えられています。喘息の他に、アトピー性皮膚炎にも適応があるため、アトピー性皮膚炎を合併した喘息患者さんにより有効性が期待できます。初回は倍量を投与し、以後2週間毎に投与を行います。 - テゼペルマブ(テゼスパイア®):抗TSLP抗体
気管支の上皮である気道上皮細胞に発現しているTSLPという受容体をブロックすることで、気道上皮から産生されるTSLPというサイトカインの効果を抑制し、喘息の病態である気道炎症を抑制する効果が期待されます。2022年9月に承認された一番新しい喘息のバイオ製剤です。上記4つのバイオ製剤とは異なる作用機序で働くことから、上記のバイオ製剤でも効果が乏しかったような重症喘息の方に適応があると見られています。4週間毎の投与スケジュールです。まだ知見が少ないため、今後のデータが待たれるところです。
喘息バイオ製剤の副作用
新しい薬ですので副作用が気になる方も多いと思います。バイオ製剤はいずれも抗体製剤ですので、肝機能や腎機能に関わらず投与が可能です。抗体製剤自身のアレルギー歴がある方には投与ができません。注射部位局所の腫脹や発赤は時折みられるものの、それ以外の副作用は少ない印象です。抗体というタンパク質が含まれていますのでアナフィラキシーの可能性がゼロではありませんので、初回投与時は投与後15分から30分程度院内で待機していただいています。
バイオ製剤の投与によって好酸球などの免疫細胞を抑えることから、販売当初は感染症などの悪化を心配される向きもありましたが、現在のところ明らかな易感染性は報告されておらず、安全性の高い薬剤と考えられます。
喘息バイオ製剤の費用
喘息バイオ製剤に限らず、抗体を用いた治療は一般的な薬剤よりも高額となっています。最小単位当たりの価格を以下にまとめました。健康保険の自己負担割合は3割の方が多いですので、その金額も記載しています。実際の投与の際は診察料なども別途かかります。また投与量は、患者さん毎で異なりますので、実際にかかる費用の目安は主治医の先生に確認するようにしましょう。また、健康保険の自己負担割合によっても金額は異なります。一般的に高額療養制度の適応となることが多いので、お使いの健康保険の制度を確認するようにしましょう。
各喘息バイオ製剤の最小単位当たりの価格(2023年1月現在)
- ゾレア皮下注150mgシリンジ:29,147円(3割で、8,744円)
- ヌーカラ皮下注100mgペン:159,891円(3割で、47,967円)
- ファセンラ皮下注30mgシリンジ:319,342円(3割で、95,802円)
- デュピクセント皮下注300mgペン:58,775円(3割で、17,632円)
- テゼスパイア皮下注210mgシリンジ:176,253円(3割で、52,876円)
バイオ製剤の適応については、ぜんそくと肺のクリニックにご相談ください
喘息のバイオ製剤は喘息治療に習熟した医師の元投与されるべきものです。すべての患者さんに適応があるわけではなく、バイオ製剤投与の基準としては、
喘息の吸入薬による治療を十分に行っているが、プレドニンやリンデロンなどの経口・点滴ステロイド治療が必要となることが年1回以上ある場合
が1つの目安となります。
ぜんそくと肺のクリニックの院長の井上英樹は、これまでに、ゾレア、ヌーカラ、ファセンラ、デュピクセントによる治療経験があります。吸入薬による治療を行っているけれども喘息の症状が良くならないといった方や、経口ステロイドを年に数回使っておられる方などはバイオ製剤の適応となる可能性があります。
判断に迷われる場合は一度当院を受診しご相談いただければと思います。
参考文献・ウェブサイト
- 「アレルギー総合診療のための分子標的治療の手引き」一般社団法人日本アレルギー学会
- 医療用医薬品:ゾレア(KEGG MEDICUS 医薬品情報)
- 医療用医薬品:ヌーカラ(KEGG MEDICUS 医薬品情報)
- 医療用医薬品:ファセンラ(KEGG MEDICUS 医薬品情報)
- 医療用医薬品:デュピクセント(KEGG MEDICUS 医薬品情報)
- 医療用医薬品:テゼスパイア(KEGG MEDICUS 医薬品情報)
- バイオ製剤とは?【ぜんそくと肺のクリニック】ショートレクチャ―(YouTubeチャンネル)