喘息やCOPDの治療薬である吸入薬にはたくさんの種類があります。すべての呼吸器疾患に効く万能の吸入薬というのは存在しません。それぞれの薬剤には一長一短があり、患者さんの症状や病態に応じて吸入薬を使い分ける必要があります。この記事では、呼吸器専門医である私が普段の診療で処方している吸入薬の選び方の基準を紹介したいと思います。
もちろんこれが正解、と断言できるものではありません。また、実際にご来院して頂き診察したのちに、この選び方とは違う処方をすることもあります。この記事を読みながらみなさまの症状に照らし合わせてみて、現在使っている吸入薬が処方された理由などを参考にしてただければと思います。
●喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)がある人
ゼーゼー、ヒューヒューとなる喘鳴(ぜんめい)は気管支喘息の典型的な症状です。息苦しくて夜も眠れず、非常につらい症状です。喘息の主な病態としては、空気の通り道である気道(気管、気管支)に慢性の炎症が起こることにあります。慢性気道炎症があると風邪などのちょっとしたきっかけで気管支が収縮し、気道が狭くなります。気道が狭くなると、笛が鳴るのと同じように、息を吐いた時にヒューと高い音が鳴ります。これが喘鳴です。
喘鳴がある方には、しっかり気道炎症を抑えてあげる必要があります。吸入薬としてはレルベア®を使うことが多いです。1日1回で済む簡便なデバイスであり、患者さんが吸入薬を毎日継続する負担を減らすことができます。薬効成分である吸入ステロイド(フルチカゾンフランカルボン酸エステル)はしっかり炎症を抑える効果を持っています。また、気管支拡張剤であるビランテロールも配合されているため持続した気管支拡張作用も期待できます。欠点として、嗄声やのどの違和感などが生じやすいということがあるので、吸入後にしっかりうがいをしていただくよう指導します。それでも、嗄声が改善しない場合は、他の種類の吸入薬への切り替えを検討します。
●咳が多い人(痰は少ない)
明らかな喘鳴や呼吸困難はないけれども、咳がひどい、という症状も日中の生活に影響が出たり、夜に咳で眠れなかったりと、つらい症状ですよね。最近のコロナ禍では、咳をしていると周囲の人に気を使ってしまい困る、という方も多いと思います。
咳以外の症状は少なく、咳がメインというような喘息の方には、フルティフォーム®の処方を行います。スプレータイプの吸入薬ですので、他のドライパウダー製剤と違ってのどや気管支への刺激が少なく吸入自体で咳が引き起こされるのを防ぐことができます。フルティフォームの成分として、吸入ステロイド(フルチカゾンプロピオン酸エステル)と長時間作用型気管支拡張薬(ホルモテロールフマル酸塩水和物)が含まれていますので、喘息に対する十分な薬効が期待できます。欠点としては、吸入回数が1日2回と増えますので、吸入を忘れないようにしっかり指導することが必要です。また、スプレータイプの吸入薬の場合は、息を吸ったタイミングで吸入器を押すという呼吸同調が必要ですので、慣れるまで少し練習が必要な方もいらっしゃいます。
呼吸同調に不安があるような患者さんにはドライパウダー製剤を使用することもあります。その場合は、薬剤粒子径が比較的小さくのどへの負担が少ない、シムビコートタービュヘイラー®を処方します。
●痰が絡む咳がある人
痰は気道に分泌された粘液や老廃物がたまったものです。痰が出ること自体は、異物を外に出す働きですので、悪いことではありません。ただし、痰の量があまりにも増えてしまうと咳が出たり、むせたり、息苦しくなったりとつらい症状となってしまいます。
痰の症状が強い方には、内服薬の去痰剤を処方するとともに、スピリーバレスピマット®などの吸入抗コリン薬の処方を行います。喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対して適応のある吸入薬です。喘息の方の場合は、吸入ステロイドや気管支拡張薬と併用して処方します。気道の過剰な分泌物を抑える働きがあります。欠点としては、抗コリン薬の特徴でもあるのですが、治療をしていない前立腺肥大や活動性の心疾患、急性閉塞隅角緑内障があると使用することはできません。
●気道炎症が強い人(呼気NOが高い人)
呼気一酸化窒素測定装置で呼気一酸化窒素濃度(呼気NO)の測定検査をすると気道炎症を評価することができます。気道炎症が高いと、現在症状が無くてもいつかのタイミングで喘息発作が起こるおそれがあります。
普段の咳、痰の自覚症状は少ないものの気道炎症が強い方には吸入ステロイド単剤の吸入薬を処方します。前述のレルベアと同じ吸入デバイスであるアニュイティ®であれば1日1回の吸入なので患者さんの日常生活への負担が少ないです。妊婦さんや授乳されている方では、赤ちゃんへの影響を心配されるケースもあります。その場合は、胎児や乳児への影響が少ないとされているパルミコート®の処方を行います。
ぜんそくと肺のクリニックでは咳や呼吸困難がある方は初診時に呼気NOの測定を行っております。クリニックはJR山手線日暮里駅から徒歩圏内にあります。上野・日暮里エリアにお住まい・お勤めの方や、山手線沿線の方はお気軽にお越しいただければと存じます。
●気管支収縮が強い人(気道抵抗が高い人)
当院に備えています呼吸抵抗測定装置(モストグラフ)で検査を行うと、気道の抵抗の目安を測定することができます。気道抵抗が高いと気道の空気が流れにくくなっている部分があるということで、気管支が収縮している可能性があります。
気道炎症はそれほど高くないものの、気道抵抗が高いという方にはシムビコートタービュヘイラー®やアテキュラ吸入用カプセル・ブリーズヘラーの処方を行います。気管支拡張効果を強めに意識した処方となります。シムビコートは1日2回の定期吸入の他に追加吸入が可能です。また発作的な咳症状が強い方には、サルタノール®やメプチン®の短時間作用型の気管支拡張薬をレスキュー薬として追加でお出しすることもあります。
欠点としては、気管支拡張薬は別名β2受容体刺激薬ともいわれ、β1受容体を持つ心臓への副作用が出現することがあります。動悸が最も多い症状です。気管支拡張薬をお使いの方で、動悸などの循環器症状が出た場合はすぐにかかりつけの先生に相談してください。
ぜんそくと肺のクリニックではそれぞれの患者さんに合わせた吸入薬をお選びします
JR山手線の日暮里駅から徒歩3分にあるぜんそくと肺のクリニック(東京都荒川区東日暮里)では、地域の呼吸器内科クリニックとして呼吸器専門医の知識・経験からひとりひとりの患者さんの状態に合わせた吸入薬の処方を行っています。咳や痰、息苦しい、のどの違和感などの呼吸器症状でお悩みの方や、気管支喘息やCOPD、肺気腫と診断されたが症状が残っている、という方がいらっしゃいましたら、是非お気軽にお立ち寄りください。